見ーてーるーだーけー


今日仕事に向かう電車での話。
わたしは座っていたんだけど、いきなりドンと大きな鈍い音がした。
なんだろうと見ると、わたしの席から2つ離れたドアを入ったところにおじいさんが倒れていた。きっと乗車しようとして段差に転んでしまったんだと思う。
おじいさんはピクピク痙攣していて起き上がれない。
でも、後から後から乗車する人達は、皆おじいさんをまたいで乗ってくるけど手を貸そうともしない。わたしと同い年くらいの人やカップルたちも知らん振りしてる。
側にあんなに人がいるのに誰も声もかけず手も貸さないことにびっくりした。
わたしが腰を上げかけたところで、おじいさんが一人でフラフラと立ち上がった。
その後、近くのお兄さんが席を譲っていた。
朝からなんだか重い気分になった。


そして帰りの話。
残業で11時に家の駅に着いた。
この駅は下りは階段で、上りはエスカレーターになっている。
階段を下りていたら、ゴンと凄い音が聞こえた。
エスカレーターに乗ろうとして転んで膝でも打ったのかな、と思ったけど立ち上がっていないのか姿が見えない。
階段を下りきったところにあるベンチに座っている若いお兄さんが、驚いた顔でエレベーターを見上げているのに気付いて、階段から身を乗り出してエスカレーターを覗いてみると、おじさんが顔を下に逆さまになったまま倒れてエスカレーターに乗っていた。
しかも顔は血まみれだった。
慌てて階段を駆け下りてエスカレーターに向かおうとした時にまたゴンと音がして、おじさんがまた顔から転がり落ちてしまった。
エスカレーターの上り口におじさんの中身の散らばった鞄と壊れた眼鏡が落ちていた。
荷物を拾っているわたしのところに、何事かとに不思議そうに近寄ってきた人に「駅員さんを呼んで来てください!」とお願いして、おじさんのところに駆け寄った。
後ろで「駅員さーん!!」と叫ぶ声が聞こえた。
このままだとまたおじさんが転がり落ちてしまうので、同い年くらいの女の子と一緒におじさんをエスカレーターから離そうとした。
後からエスカレーターを上ってくるお兄さんたちはおじさんをまたいで知らん顔。
でも少し離れたところや停車している電車の中から気になる様子で見ている。
しばらくしておじさんは立ち上がることが出来た。「本当にすみません、大丈夫です」と荷物を受け取るものの、すぐに落としてしまう。顔は血まみれでどこに傷がついているのかも分からない。もしかしたら頭からも血が出ていたのかもしれない。
ティッシュでおじさんの顔を拭きながら、なかなか来ない駅員が来るのを待った。
やっと来たと思ったら、ぞろぞろと6人も来た。
どこからそんなに連れてきたのか知らないけど、まず一人でもいいから先に駆けつけて欲しかった。そして私達に「代わりますんでもういいですよ」と言う。
おじさんの鞄と切符と眼鏡を駅員に渡していると、他の駅員が「案外大したことないかもな、救急車呼んじゃったよ。下の事務所に消毒あるからおじさん一緒に来てよ」と言っているのが聞こえた。
大したことあるかないかなんて、支えられて立ってるのがやっとのおじさんなのに、そんなに簡単に決めていいの?と思った。救急車呼ぶくらいの大事だと思ったなら、尚更もっと早くきてよとも。
一緒におじさんを起こした女の子とおじさんの身を案じながら改札まで一緒に歩いた。
帰宅して鞄を見ると、おじさんの顔を拭いた血まみれのティッシュが入っていた。


今日一日で同じようなことが続いて起こって、人の無関心な態度がどれだけ冷たいことか知った。わたしだって他人には冷たく嫌なヤツだけど、いざこういうハプニングが起こると、なんとかしなきゃと体が動いたりする。
見て見ぬふりが一番怖いと思ったのと同時にひどくがっかりした気持ちになった。