尾崎を初めて知った日


わたしが尾崎を知ったのは、中学二年生の時だった。
部屋の片隅にポツンとあった一つのカセットテープ。
それは三つ年の離れた兄の物で、他のテープにはアーティスト名が分かるように書いてあるのに、それだけ何も書かれていない。
そうなるとこのテープはなんだろうと興味を持った。
もしかしたら兄の歌声でも録音されてたりして…と思って聴いてみた。(よく兄とわたしで曲に合わせて歌ったものを録音して遊んでいた)
テープは巻き戻しされていなくて、歌の途中から流れ始めた。それが尾崎の「I LOVE YOU」だった。
それを聴いて、世の中にこんなに悲しくも優しい歌があるんだ…と驚きながら本当に感動したのを覚えてる。
そのテープは、尾崎のファーストアルバム「十七歳の地図」が入ったものだった。
一通り聴いてからも、あの最初に聴いた「I LOVE YOU」が忘れられない。
それからは毎日こっそりと巻き戻しを繰り返しては「I LOVE YOU」ばかり聴いていた。
暫くして「これは誰が歌っているんだろう」と思い、母に一緒に聴いてもらうと「尾崎豊ね。もう亡くなってるよ。」と言われショックを受けた。亡くなった理由を聞くと「確か覚せい剤で亡くなったってニュースを見たけど…」。
その時は死因が何かよりも、彼がもう生きていないという事実がショックだった。
それからは彼のCDを少しずつ買い集め、毎日毎日飽きることなく聴いていた。
彼のことを教祖だ代弁者だと世間は謳ったらしいけど、そのレッテルを利用しようとした人達以外は、本当にそんなことを思って聴いていたファンは数少ないと思う。何百回彼の歌を聴いても、わたしにはそんな風に思えないし、彼に対するイメージは最初に感じた印象の「どこか悲しい、けど、優しい」人のままでいる。